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(リセマム×中萬学院コラボ企画)
伝統を重んじながら果敢に挑戦、文武両道を貫く「湘南高校」
2019年12月12日
神奈川県立湘南高等学校は、文武両道の教育で、多くの優秀な人材を社会に輩出してきた伝統校だ。あらためて、その教育方針、学校行事や進学への取組みについて取材するために、同校を訪ねた。
伝統を継承しながら時代に即した教育に取り組む
今回対応してくださったのは、校長の稲垣一郎先生と教頭の林信仁先生のお二人。湘南高校は、旧制中学の六中、県立湘南中学校として開校され、2021年には創立100年を迎える。まずは初代の赤木愛太郎校長の話題から始まった。
--湘南高校の教育理念についてお話ください。
稲垣校長:27年務められた初代校長の赤木先生が、この学校の礎をつくられました。“日本一の学校”を作ろうと取り組まれて、特に体育を重要視されていたようです。湘南高校では、今でも体育祭などの行事を大事にしています。
「健全な魂は健全な肉体に宿る」というように、生徒たちは勉学だけでなく、さまざまな形で3年間体力をしっかりつけ、行事に取り組んでいます。行事を企画運営する中では、議論もあれば軋轢もある。そこを乗り越えたうえで受験に向かうのが湘南高校の教育の根幹です。
卒業生も支援するグローバル教育
--グローバル化という時代に合わせた教育にも積極的に取り組まれていますね。
稲垣校長:グローバルということでは、海外研修を行って今年で8回目になりました。1年生、2年生の希望者44名が毎年、イギリスやアメリカに行っています。
たとえば、湘南高校の卒業生でノーベル化学賞を受けられた根岸英一先生が特別教授を務めるパデュー大学にも、何回か訪問しました。来年はシカゴ、ニューヨークに行く予定です。湘南高校の同窓会である湘友会のニューヨーク支部が、バックアップしてくださる予定です。
また、神奈川では湘南と柏陽、東京では西と日比谷、埼玉では県立浦和と浦和一女、千葉では県立千葉と県立船橋の計8校で、夏季休業中にスタンフォード大学で研修を行っています。神奈川県の進学重点校とエントリー校の17校で、アメリカのクレアモントにも行っています。湘南高校の生徒たちが活躍するところは日本だけでなく世界だと考えていますから、早いうちに海外でのモノの考え方を身に付けるようにしてあげたいと取り組んでいます。
湘南高校の稲垣一郎校長
林教頭:外国の方々と仕事をするにはロジックをきっちりと立てて、それをきれいにしっかりとした英語にできることが重要だと思います。ですので、ディベート大会への参加も行っており、生徒たちも楽しんで参加しているようです。
行事を通じた探究とリベラルアーツ教育
--最近よく話題になる「探究」についてはいかがでしょうか。
稲垣校長:もちろん新カリキュラムに対応した「探究」にも取り組みますが、体育祭を生徒たち自らが作り上げていくことが、「探究」にあたると考えています。もちろん先輩たちからの伝承もありますが、1年間かけて、自分たちでゼロから作り出すということに、全員が関わっています。生徒たち自らが自由に企画を立てて、大道具、小道具などを作り、運営していくことは、リベラルアーツ教育にも通じることだと考えています。
--体育祭をはじめ、重要視されている行事への取組みについて詳しく教えてください。
稲垣校長:湘南では縦割りでカラーが決まっていて、体育祭をはじめ、行事はこのカラー別に、生徒たちが主体的に動きます。入学すると、まずは9色のトップに立っている総務長(生徒の代表)中心に対面式があり、4月後半には陸上記録会があります。これもやはりカラー別対抗で、このころからカラーごとのTシャツが登場します(笑)。このTシャツ作りには、教員はまったくタッチしていません。大きな枠組みは教員がしっかりと作りますが、中身については生徒たちが主体的にやっています。
の陸上記録会が始まる4月後半ごろから11月上旬ごろまでは、球技大会にあたる対組競技が行われます。球技大会というと、一定期間に集中的に行うことが多いと思いますが、本校では長期間にわたって昼休みに、いろいろな種目をクラス対抗でやります。企画もすべて生徒が行っていて、教員は出たい種目に参加したりしています(笑)。
そして合唱コンクールが7月にあります。それが終わると夏休みで、そのころには体育祭に向けて本格的な準備に入ります。こうして4月から11月までは、生徒たちが自主的に行事を行い、カラーで競っていく時期になります。そして11月から3月までは、勉強モード一色になります。
林教頭:湘南高校の生徒たちはすごく忙しいのですが、部活や行事、勉強とケジメをつけて動いていて、スケジュール管理が上手なんです。たとえば、電車に乗ったとたんに鞄から問題集や単語帳を出してずっと勉強しているのはうちの生徒たちですね。すきま時間をどう使うか、先輩たちを見て学んでいるのでしょうね。
部活動への加入率は190%
--部活動についてはいかがでしょうか。
稲垣校長:現在、文化部が26、運動部が18ありますが、加入率は190%です。というのも、たとえば野球部員が天文部にも入っているなど、兼部が多いのです。そのほか、部ではないのですが、ダンスや少林寺、落語などの同好会が5つあり、ダンス同好会の生徒たちは先日テレビにも出演しました。
林教頭:兼部といっても、すべてを一生懸命にやっている生徒が多くて、合唱部は毎年関東大会、全国大会に近いところまでいっています。文化祭では、合唱部、吹奏楽部、弦楽部が一緒にエルガーの「威風堂々」やベートーベンの「第九」をやって活躍しています。野球部も今年は神奈川でベスト16まで行きましたし、ラグビーもベスト8まで行くことが多いです。
湘南高校の林信仁教頭
稲垣校長:部活が多すぎて大変なのは、体育館が2つあって、グラウンドも広いのですが、その利用スケジュール管理ですね。ただ、その管理も生徒がうまくやっています。
アウトプットまでさせる伝統の70分授業
--学力を身に付けさせる方法を教えてください。
稲垣校長:湘南高校では伝統的に、1時限70分の授業をしています。「理解」に至るには、インプットだけではだめで、どうアウトプットさせるかが重要です。70分あれば、生徒ひとりひとりのアウトプットを見ることもできますから、うちの生徒は理解度が高いと思います。そうした授業の積み重ねが、基礎学力を支えています。
そのうえで、行事や部活で鍛えられた精神力と体力で、集中的に受験勉強をやっていきますので、特に大学入試に向けて3年生の12月半ばごろからぐんぐん点数が上がっていく。この結果は、文武両道をかかげている本校ならではだと思いますね。
世界のイノベーターになってほしい
--生徒さんたちにどのように成長していってほしいでしょうか。
稲垣校長:ここ数年、「進路の手引」に書いてきたお題は“継続的なイノベーターになってほしい”です。日本だけでなく世界を変えていく人に育ってほしいですね。
湘南高校は、企業、法曹、医学などさまざまな分野で活躍する人材を生んできましたが、今後もとんがった人間をつぶさない教育をして、良いイノベーターを育てていきたいですね。
一生懸命を認め合う湘南高校の生徒たち
では実際に湘南高校で学んでいる生徒たちは、何をきっかけに同校を志望し、何を目指して学校生活を送っているのだろうか。1年生の美杏さん、2年生の直哉くん、結音さんに話を聞いた。
参加生徒
美杏(みあん)さん:1年生/生徒会/部活:演劇、放送、生物研究、音楽研究、気象、映画研究
直哉(なおや)くん:2年生/生徒会長/部活:文藝(部長)、生物研究、英語研究、ジャグリング、かるた同好会
結音(ゆい)さん:2年生/生徒会/部活:茶道(部長)、家庭、園芸、気象
--湘南高校を志願したきっかけを教えてください。
美杏さん:卒業生が幅広い分野で活躍されているので、自分もいろいろな経験ができるのはないかと思って目指しました。
美杏さん
直哉くん:まずは学力レベルが高いということです。それと、文化祭に来たときに、ジャグリングなどの部活の発表を見て「かっこいい」と思ったのがきっかけです。
直哉くん
結音さん:湘南高校の生徒は学力が高いので、その中で過ごせたら自分自身も高い意識をもって過ごせるのではないかと思いました。それと、いろいろな部活があるので、興味のあるお稽古事などやりたいことが見つかりそうだと思ったことも理由の1つです。
結音さん
--いつ進路を決めて、どのように準備をしましたか。
美杏さん:私は湘南高校の近くで育ったので、幼稚園のころから憧れていました。ただ、具体的に志望校として決めたのは中3のときです。合格したときには嬉しくて実感がわかなかったのですが、外から見ていたことを自分が実際にやっているんだなあと、今では実感がわいてきています。
直哉くん:湘南高校を知ったのは中学に入ってからです。いろいろな学校を見ているうちに、レベルが高いし、十人十色な人たちがいるので行ってみたいと思うようになって、中3の冬から本格的に受験勉強に取り組みました。
結音さん:私も湘南高校は家から近いのですが、私の中学では「湘南高校は一番近くて遠い学校」と呼ばれていました。難易度が高くて志望校として考えていなかったのですが、中3の12月に受験しようと決め、特色検査(※)が得意ではないので5教科で勝負しました。
※ 教科ごとの学力検査や面接では測ることのできない総合的な能力や特性を見ることを目的に、学力向上進学重点校およびエントリー校で実施されている検査。
--湘南高校の好きなところを教えてください。
美杏さん:行事も活発で好きですが、日ごろの生活が楽しいですね。いろいろ人がいるので自分のためにもなるし、一緒にいて楽しい人たちが多いです。入学して、憧れていた体育祭の裏側を見ることができて、わくわくしました。
直哉くん:いろいろなことに挑戦できるところが良いと思います。たとえば英語研究部でやっているのは即興型ディベートなのですが、英語を使って時事問題を取り扱うので、いろんな能力を使います。今年の3月末には、海外研修に参加することもできましたし、学校説明会では生徒会長としてみんなの前で話をしました。やろうと思えば、自分の能力を多角的に広げていくことができます。そこが魅力でもあり、好きなところです。
結音さん:まず入学して思ったのは、一生懸命にやることを肯定的に捉える人が多くて、良い人ばかりだということでした。私は最初、生徒会に入るつもりはなかったのですが、生徒会の人たちが一生懸命やっているのを見て、自分も挑戦したいと思いました。これから行われる海外研修にも参加したいと思っています。
インタビューに応える湘南高校の生徒たち
--将来の夢を教えてください。
美杏さん:今のところ決まっていないのですが、この学校での経験を通じて、進路を決めていきたいと考えています。
直哉くん:将来の夢は2つあって、外交官と俳優です。大学で外交官の勉強をしつつ、オーディションを受けて俳優になれそうだったら俳優に。無理そうだったら外交官の道にいってキャリア官僚になってやろうと思っています。
結音さん:私は夢がよく変わるのですが、今は英語を使う仕事につきたいと思っています。世界の文化に触れるのが好きなので、空港、あるいは外務省で働いて、世界の人たちとつながりをもちたいです。
--ありがとうございました。
生徒たちを信じて認め、期待と愛情に溢れる先生方のお話。そしてそれにしっかりと応えて、学業にも部活にも行事にも一生懸命の生徒たちと、それを支える卒業生方。湘南高校100年の伝統が培った恵まれた環境でのびのびと、本気で学ぶ生徒たちの目の輝きが印象的な取材だった。
(協力:中萬学院)