CG’s EYE
県立高校改革いよいよ始動 Vol.2
No.007 2016年02月29日
神奈川県公立高校入試と県立高校改革のこれまでとこれからを、2回シリーズでお届けしています。前回は、急増する高校進学希望者に対応した「県立高校百校新設計画」と当時の入試制度「神奈川方式」、ゆとりと個性重視を反映した「県立高校改革推進計画」と当時の入試制度「複数志願制」「前期・後期選抜」についてみてきました。
今回はいよいよ新入試制度と2016年度から始まる「県立高校改革」についてみていきましょう。
受検生全員に「意欲」と「思考力・判断力・表現力」を
2004年から始まった「前期・後期選抜」も見直しの時が来ます。入試期間が長期にわたること、学力検査を伴わない推薦入試への全国的な批判が、その背景にありました。そこで2013年度から新たな入試制度「共通選抜」がスタートします。その特徴は次の4点です。
- 全員が学力検査と面接を受検する
- 学力検査は100点満点、記述式解答も増える
- 必要に応じて「特色検査」を実施できる
- 各校がその特色に応じて選抜資料の比重を変えられる
「意欲」と「思考力・判断力・表現力」を測るために全員が面接と学力検査を受ける、全国的にも珍しい入試制度です。新制度案が公表された際、パブリックコメントの多くは面接に対する慎重意見でした。そこで、共通の観点のほか各校が何を重視するかを事前に公表し、複数の面接官が面接を行うことや、2年目からは開示得点に面接得点も加えるなど、透明性の高い面接を目指しています。
これまで神奈川県の公立高校学力検査は比較的平易な問題でした。しかし「思考力・判断力・表現力」がより重視され、合格者平均点も下がりました。さらに湘南・横浜翠嵐・柏陽などが実施している特色検査は、教科横断型・総合型の出題形式で、公立中高一貫校適性検査と共通するものです。
【2】神奈川県公立高校学力検査合格者平均点 (100点満点)
合格者平均 | 英 | 数 | 国 | 理 | 社 |
---|---|---|---|---|---|
2015年度 | 51.8 | 52.6 | 64.4 | 37.4 | 50.2 |
2014年度 | 59.6 | 51.7 | 60.8 | 38.6 | 49.5 |
2013年度 | 54.8 | 65.5 | 67.8 | 66.4 | 51.1 |
2012年度 | 68.8 | 67.0 | 71.0 | 62.6 | 64.2 |
※2012年度の平均点は50点満点を100点満点に換算しています
中学生の分かりやすい学力到達目標は入試問題です。英語も「入試のための英語」ではなく「コミュニケーションツールとしての英語力」を問う、これからの大学入試にも通じるものとなっています。中学生は「入試で満点を取る」を目標に、特色検査対応力も含め学習をしっかり積んでいきたいものです。その力は高校進学のみならず、新時代の大学入試にも大きな武器となるはずです。
新入試制度下で4回行われた入試では、高倍率校が出る一方、定員割れの高校も多く見られます。これは志望校選択の主導権を受験生自身が持ち、「行きたい」と思う高校に果敢にチャレンジしていることを物語っています。まさに「15の春は自分で勝ち取る」高校入試であるわけです。
2016年度からの県立高校改革
それでは県立高校改革についてみていきましょう。2015年6月に「県立高校改革推進検討協議会」が報告書をまとめ、同年9月に「県立高校改革実施計画(全体)【素案】」が公表されました。それをもとにパブリックコメントが行われ、1083件の意見が寄せられました。そして12月に「県立高校改革実施計画(全体)【案】」「県立高校改革実施計画(I期)【案】」が公表され、1月の教育委員会で承認されました。
神奈川県では戦後3回目となる大規模な改革計画が3期12年にわたりいよいよスタートします。その改革の柱は次の3つです。
- 生徒の多様性(ダイバーシティー)を尊重し、個性や能力を伸ばす、質の高い教育の実現
- 魅力ある学校づくりを一層推進する学校経営力の向上
- 少子化社会の中で生徒に望ましい教育を推進する県立高校の再編・統合
改革は5つの地域に分け、実施されていきます(【3】参照)。詳細は県のホームページで公開されていますから興味のある方はそちらをご覧いただくとして、特に中学生と保護者にとって関心の高い2点に絞ってみていきます。一つは「再編・統合」です。前回改革では166校から23校減り143校となりました。今回は142校から20~30校を減らす計画です。前回改革より生徒数の減少は緩やかですが、「適正な学校規模」を現在の1学年6~8学級から1学年8~10学級へと大規模化し、前回と同規模の削減を行うというのがポイントです。高校募集を行わない中高一貫校は1学年4~6学級程度、県立中等教育は160名4学級ということを見ても、「適正規模」というのはやや無理がある気がします。いずれにせよ、県立高校は1学年320名から400名規模の高校になっていきます。
進学重点校はどうなる?
もう一つが「学力向上進学重点校」についてです。2015年度で指定が終了する18校に代わり、「エントリー校」が17校指定されました。秦野・横浜国際・追浜が抜け、茅ヶ崎北陵・横浜平沼が加わった17校のうち10校程度を2018年度に正式に指定するというわけです。
では、どのような基準で指定をするのか。「素案」と「案(決定)」に示された要件が【4】です。「生徒の7割以上が英検2級程度以上のレベルを達成し」など具体的な要件が挙げられています。英検2級はCEFR_B1レベルに相当しますから、中学時代に英検準2級すなわちCEFR_A2レベルの英語力はつけておく必要がありますね。
「素案」と「案」との変更点を確認しましょう。一つは特色検査の実施が要件から外れたこと。もう一つは、難関大学進学実績について、海外の大学も含め現役で進学する、としたことです。アクティブラーニングの文言が新たに入りましたが、これは新学習指導要領でベースとなる指導です。新学習指導要領実施前から取り組みなさい、ということですね。
神奈川県の大学進学率は東京と並び全国トップクラスです。多くの中学生にとって高校選択の大切な視点の一つとなっていますし、進学重点校の平均倍率は、ずっと全体平均よりも高く推移していました。そんな中、これまで18校あった指定校が10校程度に減るというのは、中学生の進路選択に少なからず影響を与えます。
【5】は神奈川県と東京都の高校進学状況と重点校を比較したものです。都立高校入試は神奈川と比べ厳しい入試だということが見て取れます。また、進学重点校もわずか7校、平均倍率は実に1.76倍という狭き門です。神奈川の進学重点校も10校程度に絞られる2018年度以降、相当な競争となることでしょう。確かに、都立との比較だけ見れば、それもいたし方ないのかも知れません。しかし、公立高校進学者が6割を超える神奈川においては、重点校を減らすことは決して中学生にとってプラスではないでしょう。
【5】神奈川県・東京都公立中学生の進路と重点校
2014年度卒業生 | 神奈川県 | 東京都 |
---|---|---|
公立中学校卒業 | 69,744名 | 78,168名 |
全日制公立高校定員 | 43,330名 | 42,225名 |
対卒業生数 | 62.1% | 54.0% |
全日制公立高校進学 | 43,079名 | 42,045名 |
進学率 | 61.8% | 53.8% |
全日制私立高校進学 | 13,714名 | 24,931名 |
進学率 | 19.7% | 31.9% |
進学重点校数(定員) | 18校5,463名 | 7校2,214名 |
対全日制定員 | 12.6% | 5.2% |
進学重点校平均倍率 | 1.44倍 | 1.76倍 |
全日制平均倍率 | 1.17倍 | 1.41倍 |
差 | 0.27 | 0.35 |
6月の報告書では「現在の学力向上進学重点校は県民の期待に十分応えていない」という厳しい評価がなされています。であればこそ、指定校を減らすのではなく、明確な目標のもと、指定校の指導の充実を図ることが県民の期待に応えることになると思われます。
中学生が夢と目標を持って頑張れるように
これまでみてきたように、神奈川県の公立高校入試制度は、中学生自身が「15の春を勝ち取る」入試になり、学力到達目標となる入試問題も、質の高い手応えのある良問が見られるようになりました。また特色検査問題も新時代の学力像を反映した、各校の先生方が苦労して作成するに値するものと言えます。神奈川県公立のそういった作問力は、全国的に見ても高い水準にあるのではないでしょうか。
多くの子どもたちにとって、高校受験は自らの人生を選択する初めての機会です。夢と目標を持ち、努力を重ねて自らの手で道を切り開く。その望ましい姿に向け、さまざまな改革が進むことを願っています。そして、進学重点校エントリー校17校が素晴らしい実績を上げ、10校と言わずすべてのエントリー校が指定を受け、中学生の目標となっていくことを期待し、2回にわたる特集の結びとします。