CG’s EYE
人口変動から見た教育界の変化
No.015 2016年11月01日
総務省は10月26日、2015年実施の国勢調査確定値を発表しました。それによると、日本の総人口は初めて減少に転じました。人口変動は教育改革や学校改革にも大きな影響を与えます。今回のCG'sEYEは、人口変動からみた教育界の動きを見ていきましょう。
大規模な少子化は過ぎ去った
日本の人口構造は「少子高齢化」と言われます。確かにそのとおりですが、大規模な少子化はすでに終わっており、今後はゆるやかな減少傾向にあります。【1】は神奈川県の県立高校改革と公立中学卒業生数をまとめたものです。1970年に約5万5千名だった卒業生数は、1988年に約12万2千名と2倍以上にふくれあがります。その年をピークに県内公立中学卒業生数は減少期に入り、今春の卒業生数は7万名あまりでした。ピーク時から4割以上減少した県内卒業生数は今後6~7万名台で推移していきます。
急激な卒業生数減少に対し、県立高校は統廃合によって23校削減しながら、それぞれの高校に特色を持たせていきました。そして今年から始まった県立高校改革実施計画では、3期12年かけて同規模の削減を予定しています。ゆるやかな減少にも関わらず同規模の削減を行うということは、学校規模が大きくなるということです。「適正な規模等」に基づく「学校の活性化」としていますが、県の財政状況が影響しているといえるでしょう。
【1】神奈川県立高校改革と公立中学卒業生数の推移
一方、生徒急減期に私立はどのように動いたのでしょう。さまざまな改革、変化が1980年代半ばから続きます。校名を変更したり制服を一新したりとイメージアップを図る私学が次々と出ました。「デザイナーズ制服」が話題にもなりました。また、公立校の週5日制完全実施に対し、それまで週5日制だったのを逆に週6日制にしたり、土曜講座を開講したりと、教育内容・カリキュラムの充実を図る私学も見られました。さらに共学化や中学校募集を開始する学校もありました。その反対に高校募集を廃止し完全中高一貫校へと舵を切った私学もあります。
今年、県内全日制私立高校に進学したのは、過去10年で最も多い約1万4千名、卒業生のおよそ5人に1人です。県外私立高校を含めるとおよそ4人に1人となります。志願者はもっと多く、5万名以上が私立高校を志願します。公立高校受験の併願、いわゆる滑り止めとしての受験が多いのですが、受験料が発生します。私学にとって、高校募集を行うか行わないかは、学校経営の点から重要なテーマといえます。高校募集を再開する私学もここ数年出てきました。
共学化したり高校募集を再開したりするだけで受験生が増える、という単純な話にはなりません。やはり学校の魅力、教育内容・カリキュラムなど、受験生にとってどれだけ魅力あるものかが最も重要です。公立高校と言えど、定員割れする高校もあれば高倍率になる高校もあります。急激な少子化が去った現在、公立私立含め「売り手市場」の時代であると言えるでしょう。
人口変動が最も小さいのは0歳~17歳
これまで神奈川県内の少子化の動きを見てきました。日本全体に目を移すと、少子化は緩やかに進行し、高齢化は急速に進行していきます。【2】は国立人口問題研究所の資料をもとに、今後数十年の人口変動をグラフにしたものです。「少子高齢化」という言葉からは、「少子」と「高齢」がクローズアップされるのですが、実は0歳から17歳の減少以上に18歳から59歳の減少のほうが大きいことがグラフから分かります。2017年と2057年の総人口に占める割合を見ると、0歳から17歳ではマイナス3.5ポイントですが、18歳から59歳ではマイナス8.4ポイントです。60歳以上はプラス11.9ポイントですから、市場変動の最も小さいのが実は17歳までの人口なのです。「少子化だから教育産業は大変だ」とはよく聞く言葉ですが、今と40年後とではさほど変わらないのですね。
【2】今後数十年の日本の人口変動
一人ひとりの生産力を上げるために
18歳から59歳、いわば「働き世代」が最も減少していく日本。40年後には現在の6割弱、実に2千576万人以上の減少が見込まれています。働き世代が減るということは、それだけ日本の経済力が減少する可能性があるということです。2015年度の日本の国内総生産(GDP)は約500兆円です。2015年の18歳~59歳人口は約6千4百万人、乱暴な計算ですが、その世代だけで500兆円上げたとすると、一人あたり780万円です。40年後も500兆円のGDPを維持するには、ざっと1千200万円以上という計算になります。
この考え方は、実は一連の教育改革の背景にあるものです。下のイメージ図は文部科学省の資料をもとに作成したものです。
労働人口が減少する中で一人ひとりの生産性が変わらないと、2050年には世界に占める日本のGDPは1.9%まで縮小するそうです。そうならないためには一人ひとりの生産性を上げる必要がある。そのためには教育改革だ、というわけです。
戦後最大級の教育改革と言われるひとつには、英語教育の大改革があります。2000年の沖縄サミットでは、21世紀は「知識基盤社会」であること、教育の共通語は英語であることなどが確認されました。2018年度からいよいよ小学校で英語が必修化されますが、すでに大学入試での英語4技能重視は始まっています。東京都立教育委員会は都立高校入試でどのようにスピーキング力を測るかの検討を来年度から本格化させます。早晩、高校入試でも英語4技能が測られるようになるでしょう。
英語教育改革をはじめとする戦後最大級の教育改革は、まさに日本の労働人口減少を背景に急ピッチに進められていくわけです。