CG’s EYE
急ピッチに進む教育改革Vol.12
2020年大学入試改革が明らかに
No.024 2017年08月01日
シリーズ12回目の今回は、7月13日に文部科学省が公表した「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」を見ていきます。2014年12月の中央教育審議会答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体改革について」での内容と比較し、ポイントを整理していきましょう。
現中学3年生と現小学5年生が初年度
大学入試センター試験に代わる新テストの名称は「大学入学共通テスト」で決定しました。実施スケジュールは【1】のとおりです。
新テストを受験する初めての学年は、現中学3年生です。そして現小学5年生から、大学入学共通テストはさらに変更される予定です。現小学5年生は、高校入学時に新学習指導要領で学習する最初の学年。そこで大学入学共通テストも、新学習指導要領に沿って変更しようというわけです。ですから、現中学3年生から小学6年生までと、現小学5年生以下では、大学入学共通テストは大きく異なるということをまずはおさえておきましょう。
答申内容は段階的に実現していく
【2】は2014年に中央教育審議会が答申した新しい大学入試問題の在り方と、今回公表された実施方針を比べたものです。答申では、現行学習指導要領でもうたわれている「思考力」「判断力」「表現力」を重視し、記述問題や教科の枠を超えた「合教科・科目型」「総合型」の出題が示されました。2020年度からの大学入学共通テストでは、教科・科目は大学入試センター試験と同様ですが、2024年度からの新共通テスト(正式名称ではありませんが、便宜上このように表現します)は、「教科・科目の簡素化を含めた見直しを図る」としています。後述しますが、2020年度入試においては「思考力・判断力・表現力」を重視した出題となっていきます。また、試験日程は2020年度からは従来どおり1月中旬の2日間を充てますが、2024年度からは、答申で示された年複数回実施を検討するとしています。
年複数回実施は「CBT方式」が前提です。「CBT」とは「Computer Based Testing」すなわちコンピュータ上で行う試験です。類題を自動的に作成し、コンピュータ上で実施することで、コストを抑制することができるとされています。しかし、その開発・実施には相応な時間が必要ですから、2024年度実施を目指すというわけです。
2024年度からの「教科・科目の簡素化」と「年複数回実施」はいわばセットですね。今のように5教科の問題を年複数回実施するのは明らかに困難です。答申では「合教科・科目型」「総合型」の出題を次のように説明しています。 「言語に関する『思考力・判断力・表現力』について…国語・英語を、例えば理科と組み合わせ、理科の文脈の中で言語に関する『思考力・判断力・表現力』を評価する」 このような教科・科目の簡素化を検討していくようです。分かりやすいイメージとしては、公立中高一貫校適性検査やPISA調査などが挙げられます。
入学者選抜の在り方も従来を踏襲
2014年の答申では、従来の「一般入試、AO入試、推薦入試の区分を廃止し、大学入学選抜全体の共通的なルールを構築」するとされました。これは①学力の3要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性」)を測ること、②各大学のアドミッション・ポリシー(どのような学生を求めるのか)に基づいた選抜を行うことに沿った改革の方向性でした。
今回の実施方針では、【3】のように、名称の変更と時期の変更、調査書の変更にとどまっています。2024年度からの選抜方法については「継続的に検討を進める」とされています。
【3】2020年度大学入学者選抜
- 入試名称(時期)の変更
一般入試 ⇒ 一般選抜
AO入試(8月以降) ⇒ 総合型選抜(9月以降)
推薦入試(11月以降) ⇒ 学校推薦型選抜(11月以降)※変更なし - 調査書に以下の①~⑥の項目欄
①各教科・科目及び総合的な学習の時間の学習における特徴等
②行動の特徴、特技等
③部活動、ボランティア活動、留学・海外経験等
④資格取得・検定等
⑤表彰・顕彰等の記録
⑥その他 - 調査書「評定平均値」を「学習成績の状況」に表記変更
基礎学力テストは活用範囲を限定
答申ではAO入試や推薦入試の参考資料への活用が検討されていた「高等学校基礎学力テスト(仮)」。実施方針では「基礎学力の確実な習得」と「高校生の学習意欲の喚起」に絞られました。名称は「学びの基礎診断」。文部科学省が認定した複数の民間測定ツールを、各高校が選択し実施するとしています。進学・就職への活用は「更に検討を行う」としています。
すると、現行のAO入試・推薦入試で問題となっている「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」を問わない選抜になる可能性があります。そこで、2020年度からの「総合型選抜」「学校推薦型選抜」では、大学入学共通テストまたは各大学が実施する評価方法等(小論文やプレゼンテーション、資格・検定試験の成績等)を少なくともいずれか一つの活用を必須としていきます。
英語4技能と「思考力・判断力・表現力」重視は前進
答申で打ち出されたドラスティックな大学入試改革提言は、2020年度入試においては小幅な変更にとどまり、2024年度入試に向けての継続検討が多くを占めます。一方で、英語4技能と「思考力・判断力・表現力」重視の選抜については、一定の前進を見せたといえるでしょう。とりわけCEFRに基づいた英語4技能測定は、日本の英語教育を大きく変える後押しとなります。
2013年に出された「グローバル化に対応した英語教育実施計画」では、使える英語の習得を目指し、小学校5年生から英語を教科化し、中学・高校卒業段階での英語力到達目標も引き上げられました。しかし、大学入試が変わらなければ「絵に描いた餅」になる危惧もありました。大学入試は日本の子どもたちの学力到達目標であるからです。
答申で示された民間の資格・検定試験の活用については、たとえば学習指導要領に沿っていない、受験料の負担や地域による受験の利便性の差異があるなど、反対意見も多くあったようです。検討の過程では2020年度から民間資格試験1本でいくか、大学入学共通テストも残すか2案が示され、一時は前者の方向で決定するかと思われました。今回の実施方針では後者、すなわち民間資格・検定試験と共通テストを実施し、各大学がどちらか、もしくは双方を活用するとされました。共通テストは「平成35年度までは実施」という表現となっており、2024年度からは民間・資格検定試験への1本化がうかがわれます。
【4】大学入試における英語4技能評価
「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能を適切に評価するため、共通テストの枠組みにおいて民間の資格・検定試験(以下、認定を受けた資格・検定試験を「認定試験」という)を活用
【試験】センターが認定した「認定試験」を受検
【時期】高校3年生4月~12月の2回までの試験結果
【成績】CEFRの段階別成績表示
【実施】平成35年度までは共通テストも実施、各大学の判断で共通テストと認定試験のいずれか、または双方を選択利用
小・中学生にとって、これからの英語学習は4技能をバランスよく伸ばしていくことが求められます。「話す」は「会話」と「プレゼン」に分かれていますから、日常会話だけでなく、人前でしっかりと意見を発表する力も求められていきます。認定試験は英検・TEAPなどが有力ですが、特に小中学生にとっては英検が分かりやすい到達目標の一つとなります。中学卒業時に英検準2級の取得、高校卒業時には英検2級以上の取得を目指していきたいものです。
記述式問題の導入と「思考力・判断力」重視のマーク式
最後に大学入試センターが公表したモデル問題を見ていきましょう。5月に記述式、7月にマーク式のモデル問題がそれぞれ公表されました。まず記述式は「国語」「数学Ⅰ」「数学Ⅰ・A」で出題されます。
【5】記述式の出題方針
【国語】
- 国語総合(古文・漢文を除く)より出題
- 条件記述式、特に「論理の吟味・構築」「情報を編集して文章にまとめること」に関わる能力の評価を重視
- 80~120字程度の問題を含め3問程度
【数学】
- 数学Ⅰの内容
- 図表やグラフ・文章などを用いて考えたことを数式で表したり、問題解決の方略などを正しく書き表したりする力などを評価。特に「数学を活用した問題解決に向けて構想・見通しを立てること」に関わる能力を評価
- 数式・問題解決の方略などを問う問題3問程度
数学のモデル問題を見ると2013年度県立中等教育適性検査と見た目はそっくりでした。いずれも角度を求める問題です。
■数学記述式モデル問題
■2013年度県立中等教育適性検査
また、7月に公表されたマーク式の国語「出題のねらい」は次のように表現されています。
文学的な文章のみを題材として提示するのではなく,文学的な文章(短歌)について書かれた二つの評論を比較して読み,それぞれの筆者の短歌の解釈や論理の展開の仕方を理解する力を問うとともに,更に二つの評論の内容を基に生徒が他の短歌を鑑賞する言語活動の場を設定し,テクストを的確に読み取る力,及び推論による内容の補足や精緻化によってテクストを構造化する力も問うた。
ポイントの一つは「二つの評論を比較して読み」です。複数の文章や資料等を読み解き、そこから共通点や差異を見出し問いに答えるというのは、公立中高一貫校適性検査や神奈川県公立高校入試にも見られる出題です。
「思考力・判断力・表現力」は、現在の神奈川県公立高校入試でも重視される力です。私立中学受験、公立中高一貫校適性検査でも同様です。2020年度からの大学入学共通テストで求められる力は、実はすでに子どもたちが中学・高校受験に向けてしっかりトレーニングしている力と同じです。ですから、少なくも現中学3年生から小学校6年生は、大学入学共通テストに向けて特別な対策を講じる必要はありません(もちろん英語は別です)。そして小学校5年生以下は、「合教科・科目型」「総合型」の出題を視野に、受検の有無は別として、公立中高一貫校適性検査問題に親しんでいくというのは、学習経験として有効といえるでしょう。