まずは6月12日に県教委が公表した2019年度公立高校選考基準からみていこう。
CG’s EYE
公立高校選考基準とSociety5.0
No.035 2018年07月01日
今回は2019年度公立高校選考基準と文科省が公表した「Society5.0に向けた人材育成」についてみていきます。
進学重点校の特色検査に大きな変化
全日制は横浜国際バカロレアコース(仮称)の新設含め、196学科コースでの募集です。「調査書:学力検査:面接」比率などの変更は現行制度になってから最も少なく、落ち着いた感があります。
【1】全日制公立高校1次選考比率
調査書:学力検査:面接 | 採用学科・コース数 |
---|---|
4:4:2 | 104 |
5:3:2 | 54 |
3:5:2 | 31 |
4:3:3 | 3(平塚湘風・川崎[福祉]・幸[ビジネス教養]) |
3:4:3 | 2(川崎[生活科学]・三浦初声[都市農業]) |
3:3:4 | 1(市立橘[スポーツ]) |
2:6:2 | 1(横浜翠嵐) |
県立上溝と市立桜丘が3:5:2の学力重視型から4:4:2のバランス型に変更し、全体の53.1%がバランス型に。ちなみに新制度元年は全体の46.0%がバランス型だったが、昨年半数を超え過去最高となった。
注目された横浜国際バカロレアコース(仮称)は実技検査に加え筆記型の自己表現検査が課せられました。実技と自己表現両方を実施する初めてのケースです。
先月号でみたように、IBDPは海外大学の入学資格を得られるだけではない、魅力的な教育プログラム。国際バカロレアコースを第1希望にして第2希望を本体という志願ができるから、もともと横浜国際志望の生徒にとって、検討しやすいね。
そして注目は、進学重点校4校の特色検査です。進学重点校は昨年先行指定された湘南と横浜翠嵐、今年指定された厚木と柏陽の4校です。その4校が共通問題・共通選択問題で特色検査を実施します。検査時間も60分に統一され、各校の評価の観点が一新され共通になっています。観点は全部で4項目、そのうち2項目は湘南と横浜翠嵐だけに適用されています。
【2】進学重点校評価の観点と検査の概要
進学重点校 | 湘南・横浜翠嵐・厚木・柏陽 |
---|---|
評価の観点 ●…4校共通 ★…湘南・横浜翠嵐のみ |
●論理的思考力・判断力・表現力 ●情報活用能力 ★創造力及び想像力 ★科学的思考力・判断力・表現力 |
検査の概要 | ・提示された文章や資料を読み取り、中学校までに習得した知識・技能を教科横断的に活用して、問題を解決する思考力・判断力・表現力や創造力等を把握するための検査を行う。 ・検査時間は60分とする。 |
湘南・横浜翠嵐の評価の観点「創造力」に注目したい。筆記型自己表現検査ではほかに横浜緑ヶ丘の「創造性」があるだけだ。横浜緑ヶ丘は2014年度から筆記型自己表現検査を導入したけれど、「創造性」という観点が示された当時は正直驚いた。
横浜緑ヶ丘の昨年の特色検査の問2は「思考」「表現」が各15点、「創造」が20点分配点されています。与えられた場所に仲間と協力して秘密基地を作るという設定で、基地の愛称、アピールポイント、構造や機能の説明を表現する問題でした。2校ではどのような出題になるのでしょう。
今の時点では「楽しみ」としか言えないけれど、あらためて「創造力」を辞書で引くと次のように説明されている。
新しいものをつくりだす能力。解答が1つだけではないような課題における思考、すなわち発散的思考の能力と関係があるとされる。知能の高い人が創造力にもすぐれているとはかぎらず、創造力は知能のほかにパーソナリティ、動機、所属する集団など、さまざまな要因により影響される。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)
「創造」は何もないところから生み出すものではなく、提示された課題に対して自分なりの考えを示すもの。導き出される答えは1つではなく、解答者の着眼点、思考のプロセスに個性・独自性があらわれていくもの、と私なりに解釈している。
現行の学習指導要領の解説をあらためて見直したのですが、「創造力」という記述は見当たりませんでした。編集長がいつも立ち戻る「21世紀型能力」の思考力には「創造力」があるのと、「創造性」は改正教育基本法の教育の目標「個人の価値を尊重してその能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと」がありました。
「創造性」や「創造力」は最近になって目にするようになったキーワードの一つだよね。特に、新学習指導要領策定に至るプロセスで登場回数が多くなった気がする。たとえば「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」(2016年8月中央教育審議会)では次のような記述がある。
子供たちは、各教科等における習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等で習得した概念(知識)や考え方を活用しながら、問いを見出して解決したり、自分の考えを形成し表したり、思いを基に意味や価値を創造したりすることに向かう。
我が国が、科学技術・学術研究の先進国として、将来にわたり存在感を発揮するとともに成果を広く共有していくためには、子供たちが、卓越した研究や技術革新、技術経営などの新たな価値の創造を担うキャリアに関心を持つことができるよう、理数科目等に関する学習への関心を高め、裾野を広げていくことも重要である。加えて、豊かな感性や想像力等を育むことは、あらゆる創造の源泉となるものであり、芸術系教科等における学習や、美術館や音楽会等を活用した芸術鑑賞活動等を充実させていくことも求められる。
さらに、6月5日に文部科学省が公表した「Society5.0に向けた人材育成」でも登場している。
Society5.0の「学びの時代」とは
ということで、次の話題に移ります。この公表資料は、9回にわたる有識者との議論を経て省内タスクフォースがまとめたものです。第1章では「Society5.0」の社会像と求められる人材像、学びの在り方が整理され、第2章と第3章では取り組むべき政策の方向性と取り組むべき施策が挙げられています。
【4】Society5.0と学校ver.3.0
超スマート社会をけん引する2つの人材像が示されているけれどキーワードは「創造する」だね。そして共通して求められる力として「読解力」「科学的思考力」「感性・創造力・好奇心や探求力」が挙げられている。
あらためて湘南、横浜翠嵐の特色検査の評価の観点に戻ると「論理的思考力・判断力・表現力」「情報活用能力」「創造力及び想像力」「科学的思考力・判断力・表現力」の4つを教科横断型の60分のペーパーテストで測るのは、まさにこれからの時代をリードする人材を育成する2校にふさわしいものだと感じます。
そうだね。そして今回の公表資料では、「学校ver.3.0」として「学びの時代」をうたっている。AIやビッグデータを活用し、生徒一人ひとりに最適化された学びを実現するとしている。いわゆる「EdTech」を学校現場に積極的に導入し教材のデジタル化や「スタディ・ログ等を蓄積した学びのポートフォリオ」を活用した指導と評価の一体化などが示されている。「EdTech」はEducation(教育)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた言葉。ICTを活用した教材や学習支援、学習評価ツールなどさまざまな商品が出てきた。中萬学院でも生徒がタブレット端末を使った英語学習に取り組み、成果が出ている。
資料ではリーディングプロジェクトとして、高校生6万人に1カ所を目安に各都道府県に「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム」を創設することが示されています。「グローバル・イノベーティブ人材」育成を目的に、選抜された高校生が個人の興味・関心・特性に応じて高度かつ多様な科目内容を履修、留学生と一緒に英語での授業・探究活動等を行う一方、短期・長期留学も必修化するとしています。
優秀な高校生を集め、さらに鍛え伸ばそうというわけだね。神奈川県の高校生数は3学年あわせて約20万人なので、3校程度に創設される計算だ。高校が有志で集まり、長期休暇を利用して海外からの大学生を交えたワークショップを共同で実施するといった取り組みはこれまでもあったけれど、規模も中身も次元が違う。注目したい動きだね。でも最も注目したいのは「文理分断からの脱却」とキーワード「STEAM教育」(※)。2020年度から学年実施される高校の新学習指導要領では理数教育の充実や情報教育の充実(プログラミングの必履修)が掲げられているが、さらに踏み込んだ内容になっている。
(※) Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学)・Mathematics(数学)+Art(芸術)
「Society5.0」のエンジニアリング、デザイン、サイエンス、アート的発想と「STEAM」がリンクしています。「文理分断」は大学受験の在り方と高校のカリキュラム編成に関わるところですね。文系・理系という分け方をしているのは日本ぐらいだ、と指摘する校長先生もいらっしゃいます。「人文科学」「自然科学」「社会科学」と、すべてにわたり科学・サイエンスは必要だと。
私大文系最難関の一つ早稲田大学政経学部の入試では、2020年度からの大学入学共通テストの数学を必修にする決定がされた。これは象徴的な事例だね。いわゆる進学校では、国公立大センター試験に対応したカリキュラムを全員に履修させるというのが多いけれど、私立大文系にフォーカスしたカリキュラムを用意する高校では、今後見直しが必要になってくるかもしれないね。2024年度からの大学入学共通テストでは「情報」を科目追加することも検討するとしている。「教科・科目の簡素化」「CBT方式による複数回実施」も含め、大学入学共通テスト第二世代の詳細は2021年度までに公表される予定だ。
現小学6年生が、新学習指導要領で高校課程を学習する最初の学年です。これまで見てきた変革の方向性を十分に知っておく必要が、私たちはもちろん保護者の方にもありますね。
「Society5.0に向けた人材育成」に示されたものは、湘南・横浜翠嵐の特色検査の評価の観点に表れていたり、神奈川県公立高校入試、公立中高一貫校適性検査、私立中学入試などでもすでに問われていたりする。だから、少なくとも神奈川の小・中学生は目標とする中学受験、高校受験に向けた学習にしっかり取り組んでいくことが、Society5.0で活躍する力を養っていくことにもつながっていく。
今回は特に難しい用語がたくさんでてきました(笑)。
ではまとめを兼ねて一つ質問。「論理的思考力」と「科学的思考力」の違いを説明して。
「科学的」は「実証性」「再現性」「客観性」があること。簡単に言えばだれが考えても同じ答えになります。「論理的」は因果や抽象具象、対比など、2つのものの関係性を正しくとらえること。その組み合わせだったり推論の進め方だったりで、導かれる答えが異なることもあります。前者は主観が一切排除され、後者は主観が影響する、という説明でどうでしょう。
さすが!それではもう一問。【4】で登場する「読解力」で注意すべき点は?
文章だけでなく情報を正確に理解し、論理的思考を行うために必要な力としている点です。グラフや図表も「読解」の対象です。
それで想起する入試問題は?
神奈川県公立高校入試の国語や公立中高一貫校適性検査です。文章とグラフや図表から情報を読み解き課題解決する出題が定番です。そして今年話題になった開成中学の国語の「カニ弁当」問題もそうですね。「読解力」「科学的思考力」「論理的思考力」と表現力が問われていました。
お見事です。それぞれの目標とする入試に向けてしっかり頑張っていきましょう。