CG’s EYE
今とこれからの教育
No.042 2019年01月31日
2019年最初のCG’sEYEは、今とこれからの教育を「教育トレンドワード5選」を通し見ていきましょう。
なお、キーワードの選定、解釈は編集長の主観が多分に影響していること、あしからずご了承ください。
「資質・能力」
新学習指導要領では、身につけるべき力をこれまでの「学力」から「資質・能力」という言葉で表現しています。学力は学校世界、それに対し資質・能力は社会で生きる上で必要な力。学校教育は子どもたちが社会で自立して生きていく力を身につけさせる、ということがより明確に伝わる言葉です。
法律に規定され、学校教育・入試の柱となっている「学力の三要素」と資質・能力の関係は【1】のとおりです。
【1】学力の三要素と資質・能力
学力 | 資質・能力 |
---|---|
知識・技能 | 何を知っているか、何ができるか |
思考力・判断力・表現力 | 知っていること・できることをどう使うか |
主体性 | どのように社会・世界と関わり、より良い人生を送るか |
(「教育課程企画特別部会における論点整理」ほか)
新学習指導要領は「何ができるようになるか」を明確にした点が、改訂のポイントの一つです。
「教科横断」
その資質・能力の育成を図るための「教科横断的な学習の充実」も改訂のポイントの一つです。仕事や生活を9教科に分けて整理するのは無理があります。すでに公立中高一貫校適性検査や神奈川県公立高校入試の特色検査など、教科横断型の入試が行われています。また公立高校入試問題も例えば国語や英語でグラフ・図表等の資料を読み取ったり計算したりといった出題も見られるようになりました。実生活の場面を想定した出題は、大学入学共通テスト・プレテストでも色濃くあらわれています。プレテストでは文章量・情報量の多さが話題になりました。日常生活場面での課題解決を意識した作問のため、状況・場面の設定、説明に相応の情報が必要だからでした。ちなみに、大学入学共通テストは新学習指導要領世代が受験する2024年度に「合科目型」入試の導入も検討されています。
「STEAM教育」
教科横断とセットでとらえると良いのが「文理分断からの脱却」です。特に高校や大学入試では「文系」「理系」というように、理数系科目の得意・不得意によって選択する進路が分かれているのが現状です。文部科学省が2018年に公表した「Society5.0に向けた人材育成」では、すべての高校生が教育課程でしっかり理数教科に取り組む「文理分断からの脱却」が挙げられています。そのうえで高等教育機関で優秀な科学者技術者を育てようというのが、大きな絵です。
日本ではこれまで「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」を指定し「先進的な理数教育を実施するとともに、高大接続の在り方について大学との共同研究や、国際性を育むための取組を推進」してきました。指定は原則5年間、平成30年度指定校は全国で204校です。神奈川県内の指定校は【2】のとおりです。
【2】県内SSH指定状況
指定年度(指定期間5年間) | 指定校 |
---|---|
平成30年度 | 県立希望ヶ丘高校 |
平成29年度 | 私立聖光学院中学・高校 |
平成28年度 | 県立横須賀高校 |
平成27年度 | 市立横浜サイエンスフロンティア高校 |
平成26年度 | - |
平成25年度 | 県立厚木高校 |
指定終了 | 県立神奈川総合産業高校 県立西湘高校 県立柏陽高校 |
こういった取り組み・研究成果を踏まえ、来るべき「Society5.0」時代に向けて「STEAM教育」という言葉が見られるようになりました。「理数教育」が平成時代の言葉であるならば、「STEAM教育」は新時代の教育を象徴する言葉かもしれません。
「STEAM教育」はオバマ政権時代にアメリカで提唱された「STEM教育」がもとです。アメリカが今後も世界のリーダーであり続けるためには、S…Science(科学)、T…Technology(技術)、E…Engineering(工学)、M…Mathematics(数学)の教育に力を入れるべきだというものです。最近になって「Art(芸術)」が加わり「STEAM教育」が使われるようになりました。Artが加わったのは、AI時代において人間の「強み」の一つとなりうるからでしょう。文部科学省が発信するさまざまな資料にも、「STEAM教育」が使われ始めています。
「EdTec」
その推進に欠かせないインフラが「EdTec」です。エデュケーションとテクノロジーを組み合わせた造語です。学校現場でも塾現場でも、インターネットやPC・タブレット端末、学習ソフトの普及・活用が進んでいます。教育の質向上は「EdTec」抜きには語れません。新学習指導要領で必修化されたプログラミング(既存の教科学習の一部に取り入れる)もインフラが必要です。そのインフラ整備には当然コストがかかります。公立校では設置母体の予算が影響します。児童・生徒数が多く大規模な予算措置が必要になる自治体より、小規模の自治体のほうが取り組みが早いようです。
「学びのポートフォリオ」
EdTecを活用することで期待されるのが、学習の個別最適化です。生徒一人ひとりのスタディログを「学びのポートフォリオ」として電子化・蓄積し、たとえば苦手単元の強化克服や得意単元の伸長などに生かすことが考えられます。日々の学習にとどまらず、自分が興味・関心を持った分野の研究過程・成果の記録も含めた「学びのポートフォリオ」が、将来の進路選択にも生かされるでしょう。
「あなたは何をしてきて何ができるの?あなたはこれから何をしたいの?」
子どもたち一人ひとりがその答えを自信と希望をもって伝えられること。これが教育の本質ではないでしょうか。終身雇用の価値観が変化し、今以上に「何ができるのか、何がしたいのか」が問われる機会が増えるこれからの時代。一人ひとりが「知の資源」「経験の資源」を蓄え、未来を切り開いていってほしいと願いながら、2019年最初のCG’sEYEの結びとします。