CG’s EYE
神奈川県公立高校入試問題
No.045 2019年05月14日
今回は変化を見せている神奈川県公立高校入試問題を取り上げます。
合格者平均点と得点分布
学力検査で「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」を、面接で「主体性」をそれぞれ測る、2013年度から始まった現行入試制度。3つの学力を測る先進的な入試制度も、今年で7回目を迎えました。【1】は合格者平均点の推移です。親御さん世代の神奈川県公立高校入試は差のつきにくい易しい問題でしたが、今や全国屈指の難度を誇る(?)問題です。今年は数学・国語が現行制度上で過去最低の合格者平均点を記録しました。
【1】全日制合格者の学力検査平均点推移(100点満点)
年度 | 英語 | 数学 | 国語 | 理科 | 社会 |
---|---|---|---|---|---|
2019年度 | 49.8 | 50.3 | 59.1 | 61.3 | 42.5 |
2018年度 | 56.1 | 56.0 | 65.6 | 45.3 | 41.8 |
2017年度 | 51.9 | 63.5 | 73.1 | 46.9 | 54.5 |
2016年度 | 43.0 | 51.7 | 64.7 | 46.5 | 52.0 |
2015年度 | 51.8 | 52.6 | 64.4 | 37.4 | 50.2 |
2014年度 | 59.6 | 51.7 | 60.8 | 38.6 | 49.5 |
2013年度 | 54.8 | 65.5 | 67.8 | 66.4 | 51.1 |
2012年度(※) | 68.8 | 67.0 | 71.0 | 62.6 | 64.2 |
(※)50点満点を100点満点に換算
平均点だけでは見えない傾向を合格者得点分布(【2】)で見てみましょう。
分布が三角形型で、かつ鋭角であればあるほど得点のばらつきは小さく、分布が台形型であればあるほど得点のばらつきは大きいことになります。最低点を記録した数学と国語を比較すると、数学は三角形型で、頂上の位置が低得点側になったことが分かります。一方国語は、これまで三角形型だったものが台形型に近い分布に変化したことが見て取れます。理科の分布に近いですね。ちなみに理科の合格者平均点は昨年から15点以上高くなりましたが、台形型に近い分布なので、得点のばらつきが大きい入試であったことが分かります。
2018年11月実施の大学入学共通テスト試行問題の得点分布を見てみます【3】。
数学と国語は三角形型、英語は台形型に近い分布ですね。平均点が5割程度となる作問を目指していますが、数学は「みんな解けない」問題となっています。一方、英語は平均点が5割、得点のばらつきも見られます。おそらく本番も同程度の出題となるでしょう。 神奈川県公立高校入試でも英語は台形型の得点分布です。平均点も得点分布も、旧制度からの変化が最も大きい教科が英語です。【4】は今春の出題概要です。長文読解力はもちろん資料と照合しながら情報を整理する力や場面を正しくイメージする力、場面に応じた言い換え表現など、実践的な英語力が求められていることから、得点のばらつきが大きくなっています。
【4】2019年度英語学力検査出題概要大設問 | 設問形式別 | 小設問数 | 配点 | 比率 | トピック |
---|---|---|---|---|---|
問1 | リスニング | 7問 | 21点 | 21% | 放送された英文語数は昨年の約4割増 |
問2 | 語い | 3問 | 6点 | 34% | 対話文の文脈を読み取り単語を書く。(ウ)の正答率は14.2%と高難度 |
問3 | 文法(適語選択) | 4問 | 12点 | 知識の正確さが問われる出題 | |
問4 | 文法(語順整序) | 4問 | 16点 | 品詞の正確な知識を活用する出題。(ウ)は24.1%、(エ)は27.0%の正答率 | |
問5 | 条件英作文(絵付き) | 1問 | 5点 | 5% | 3枚の絵から場面にふさわしい表現を考えて書く出題。正答率は14.9%と高難度 |
問6 | 長文読解(スピーチ) | 3問 | 15点 | 40% | 総語数637語のスピーチテーマは「フードマイレージと食糧自給率」。資料と本文を対照して読み取る情報処理力が求められる |
問7 | 読解(条件整理) | 2問 | 10点 | 英文と資料を照合し課題解決を図る出題 | |
問8 | 長文読解(対話文) | 3問 | 15点 | 総語数844語の生徒3人と教師1人の対話文。対話文から地図に情報を書き込む作業や具体から抽象への言い換え表現を読み取る力が求められた。(ウ)の内容一致問題の正答率は29.0% |
※トピックは中萬学院作成。トピック内の正答率は全受験者の正答率(県教委公表)
高得点側に三角形型を創るのが塾の指導
一般的に基礎基本の知識を問う確認テストのようなものであれば、得点分布は高得点側に鋭角の三角形を描きます。【5】は平成30年度全国学力状況調査の正答数分布です。基本知識を問うA問題では三角形型になっているのが分かります。ところが知識の活用力を問うB問題を見ると、公立校では台形型、国立校・私立校では三角形型に分布していることが分かります。国立教育政策所は「国立・私立学校は一般的に入学者選抜を行っていることに留意する必要があるが、平均正答数について見ると、29年度同様、国立・私立学校は、公立学校を上回っている」と付記しています。 知識の活用力を問う出題は高校入試、大学入学共通テストでも同様に重視されています。これらの問題でもしっかり得点できる生徒を育てるのは、塾の使命です。そして神奈川県公立高校入試では進学重点校・エントリー校17校がすべて実施することになる特色検査によって、その重要性がますます高まっています。
特色検査がこれからの学力到達目標の一つに
特色検査は現行入試制度の特徴の一つです。共通選抜に加え、各校が特色に合わせて独自に実施できるもので、実技検査と自己表現検査に分かれます。2019年度実施は【6】のとおりです。
【6】2019年度入試特色検査実施校(クリエイティブスクール除く)
特色検査の種類 | 実施校・学科・コース [ ]…特色検査比率 | |
---|---|---|
自己表現検査 | 筆記型 | 湘南[1]・横浜翠嵐[2]・厚木[2]・柏陽[2]・希望ケ丘[1]・平塚江南[1]・横須賀[1]・横浜緑ケ丘[2]・横浜国際(国際バカロレア)[2※]・横浜サイエンスフロンティア[2] |
スピーチ型 | ― | |
討論型 | 神奈川総合(国際文化)[2] | |
実技検査 |
厚木北(スポーツ科学)[5]・川崎総合科学(デザイン)[3]・上矢部(美術)[3]・橘(スポーツ)[5]・戸塚(音楽)[3]・白山(美術)[4]・弥栄(音楽)[4]・弥栄(スポーツ科学)[4]・弥栄(美術)[3]・横浜国際(国際バカロレア※)[2]・横浜国際(本体)[3]・横浜商業(スポーツマネジメント)[3] |
※横浜国際(国際バカロレア)の特色検査は自己表現検査と実技検査の合計4の比率
ここで取り上げるのは、筆記型の自己表現検査です。公立中高一貫校適性検査問題に近しい教科横断型の出題です。これまで各校が作成し実施されていた筆記型の特色検査ですが、2020年度入試から進学重点校・エントリー校17校すべてで、共通問題・共通選択問題を使って実施されることになっています。今春はその先駆けとして7校で共通問題・共通選択問題による特色検査が実施されました。【7】が今春の実施状況です。
評価の観点と設問との連関は?
県を代表する公立進学校が実施する特色検査は、これからの中学生の学力目標になるのは間違いありません。特色検査を目標の一つにすえることは、大学入学共通テストへのステップでもあるわけです。 しかし、指導者として頭を悩ます問題が一つあります。それは、各校が事前に示した「評価の観点」と実際の出題がどうつながっているのか、ということです。その点、横浜緑ケ丘高校の事例は参考になるものです。同校は今春も独自の特色検査を実施、評価の観点は「論理的思考力」「表現力」「創造性」の3つでした。そして解答用紙の小計欄にはどの観点に関係するものかが明記されています。「こういう問題が『創造性』を測るものだ」と中学生にとっても指導者にとっても分かり、学習の目安となります。 評価の観点で示される学力(資質・能力)は、「令和」の新時代に求められる力です。中学生がそれらの力を意識し学習に取り組むためにも、特色検査問題と評価の観点の連関が明確になることを願い、本稿の結びとします。
※神奈川県公立高校入試問題 は県教委ホームページ、各校特色検査問題 は神奈川新聞WEBサイト「カナロコ」でご覧いただけます。