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2013年7月公開号
vol.18 C+human:「ぶれない理念」と「進取の精神」私学教育の魅力とは
公立中高一貫校に注目が集まる中、6カ年教育の先駆けである私学には公立校では成し得ない教育実践が行われています。
その取り組みの一端を、神奈川県私立中学高等学校協会理事長でもある聖光学院工藤校長先生にお聞きしました。
工藤先生プロフィール
神奈川県私立中学高等学校協会 理事長
聖光学院中学高等学校 理事長・校長
工藤 誠一
Kudo Seiichi
1955年神奈川県生まれ。母校聖光学院中学高等学校に奉職、2004年同校校長、2012年理事長就任。
同じ6カ年教育でも公立とは決定的に違うこと
6カ年教育という点では公立中高一貫校も私立の中高一貫校も変わりません。多感な時期、3年間で区切られることなく6年間「同じ釜の飯を食う」というのは良いことです。公立の中高一貫校に人気が集まるというのは、やはり6年間を一貫教育で過ごすことのメリットというのを多くの方が支持しているからだと、私は考えています。
では違いはどこにあるか。公立校の場合は、教育委員会や文部科学省の直接的な指示を受け、その時その時の政治に左右されやすいことです。私学の場合は各校が独自の建学の精神をもって普遍的な教育をすることができる。その「ぶれない」という点において私学教育のよさがあると思います。
そして同時に私学の場合は教職員の転勤がないので、多くの先生が長く勤務していらっしゃいます。ですから卒業した生徒にとって心のふるさとになるし、学校は伝統を築き上げていってその地域に根ざして文化を発信することができます。それはやはり私学の大きなメリットである、そのように考えています。
教育を選ぶという権利と喜び
少子化の中、学校の選択肢はむしろ増えています。男子校もあれば女子校もある共学校もある、学校の行事等についても取り組みがさまざまですから、お子さんの個性に合った個性ある教育を受けることができる。その喜びはもちろんのこと、選ぶことそのものにも喜びがあるでしょう。その意味において私学の果たす役割というのは大きいかなというふうに思っています。
世界人権宣言では、民主的な国家の中では親は子どもの教育の種類を選ぶ権利を有する、このように規定しています。ご家庭がお子様にどのような教育を受けさせられるか、それが保障されてこそ民主的国家だと言われています。私学も含め、まさに教育を選ぶことができます。そのためにも公私間の授業料の格差が補助金等によって縮小していくことが、今の時代に求められている教育に対する取り組みです。
建学の精神に基づいて
わが校の特徴的な教育として「聖光塾」と「選択芸術講座」があります。「聖光塾」はいろいろな受験勉強をするというのではなくて、生徒たちが学年を超えて多くの学びを自分からすることができる自己啓発型学習です。数学オリンピックに出るような講座もあれば、あるいは里山の自然といってこの横浜の里山を訪ね歩くとか、海辺の生物を観察に行くとか、そういったものがあります。「選択芸術講座」は、中学生の多感な時期にいろいろな芸術について自分でやってみるということで、通常の音楽や美術の授業とは違ったかたちで1年間を通してヴァイオリンならヴァイオリン、絵画なら絵画など、継続して学ぶことができるものです。「選択芸術講座」がきっかけになって、私生活の中で習い事として書道やフルートを続けていくとか、学校のクラブ活動に転部して続けている生徒もいます。
生徒それぞれが学びたいことは何なのかを考え、あるいは本当に美しいもの、善なもの、そういったものを極めていく人間に育ってほしい。いろいろなかたちの経験を積むことによって人間的な領域が大きくなる。いろいろなかたちで多くのものを受け入れることが、これからの多様な国際社会の中で生きていく人材として欠かすことのできないことである、そのように考えています。
「聖光塾」にしても「選択芸術」にしても、我が校の教職員だけでなく他の専門的な方をお呼びして行うことで子どもたちの領域というものは大きく広がっていっているのではないかな。我々学校だけでやっては限界がある。多くの社会の力を借りて行うことによって、より発展的な取り組みができると考えています。
在校生を見る。それが学校選びの道しるべ
保護者の皆様が学校を選ぶときにいちばん大事なのは、やはり学校へ行ってその生徒たちと話してみる、声をかけてみるということです。その子たちの表情を見ればその学校がどのような学校であるか分かると思うんですね。そのことがいちばん良い学校を選ぶ一つの道しるべになると思います。学校に出かけていく、そして在校生に声をかけて話を聞いてみる、それが一番ではないでしょうか。
フレル編集部より
5月28日、テレビ神奈川「CHUMAN進学ナビステーション」のロケにあわせて聖光学院を訪問しました。2011年から始まった新校舎整備施工計画も、残すは高校棟・特別教室棟、第二体育館・武道場棟の竣工を待つばかり。2014年10月にすべて完成の予定です。県内屈指の音響設備を持つ1,500名収容の「ラムネホール」とおしゃれな学食は、正門を入ってすぐに配置されています。ゆとりある空間と随所に木の温もりを配した新校舎や屋上庭園からは、生徒たちが伸びやかに学校生活を送れるようにとの思想が感じられます。旧校舎の解体工事は、あえて生徒たちに見えるように覆いをせず進められていました。
学校紹介は高2の生徒会長・副会長が務めてくれました。「将来は『Dr.コトー』のように自分の力で医療に携りたい。去年のスペイン一人旅は自分の限界を知る良い経験になった」と生徒会長さん。副会長さんは「将来はモノづくりに携りたいが、東大の教養課程の間にもう一度自分を見つめなおします」。二人とも武道をしているとあって、はきはきとした受け答えが印象的なさわやかな高校生でした。
二人のインタビューで最も印象に残った言葉があります。「友だちとは一つのテーマで深く議論することがあります。友だちのものの見方、考え方になるほどと思ったり自分の考えが深まったり。6年間一緒に過ごす仲間だからこそ、表面的なつきあいではなく、友だちと深いところでつながっていると思います」工藤校長先生のおっしゃった「学校選びには生徒と話すことがいちばん」を実感しました。
豊かな学びの6年間を家族で探す喜び、目指す喜び、そして何より自分の力で勝ち取った学びの場で成長する喜び。中高一貫校の魅力をあらためて感じた取材となりました。