furel
2014年6月公開号
vol.28 特集:SGH指定校 公文国際学園の取り組み
世界へ飛躍するための取り組みを
2014年3月に文部科学省からスーパーグローバルハイスクール(以下SGH)の指定を受けた公文国際学園。県内私立では唯一の指定です。その構想名は「世界へ飛躍するための総合学習と模擬国連によるグローバル・リーダーの育成」。私学ならではの取り組みと、今後の展望について校長先生にお話を伺いました。
「生徒主体」の精神を重んじて
公文国際学園は3つの教育目標を掲げています。第一に「自律し、自立する」、第二に「『異質の他者』を認める」、第三に「言葉や知識、情報を自在に活用する」ことです。これらの目標を現実のものとするために、学校生活のあらゆる場面で生徒が主体となって行動する「仕掛け」を用意しています。
そもそもわが校には校則も制服もありませんから、たとえば「どんな式にどういう服装で出席するか」といったTPOも生徒が自分で考え判断する必要があります。体育祭や修学旅行などの学校行事も、企画・運営のほとんどすべてを生徒たちが行います。行事を成立させるためには、生徒たちが自分の行動に責任をもち、問題が生じても生徒同士で解決していかなければなりません。またわが校には寮がありますが、通学生であっても中1の4カ月間は寮に入り4人部屋で生活します。親元を離れて様々な生徒たちと生活をともにするために、生活のスケジューリングも含めて自分で考えてコントロールすることを否が応でも求められるわけです。
模擬国連活動も私たちが力を入れている学校行事の一つです。(参照:公文国際学園の模擬国連活動)校内での開催に加え、海外で行われる複数の模擬国連にも毎年参加しています。実は30名を超える参加者のうち、3割ほどは海外経験がない生徒です。彼らにとっては海外の学生たちと議論することはもちろん、それを聞き取ることさえ難しい状況の中に身をおいて、大きなカルチャー・ショックを受けつつも世界を肌で感じ、自分の視野を広げて成長する。それもまたこの活動の良いところだと思っています。
このようにして生徒たちは中高一貫の6年間の中で、様々な経験を自ら重ねていきます。自分と異なる価値観を知り、時には失敗をしながらも関わり合い方を身に付け、成長していくのです。その成長は私たち教員から見ても目を見張るほどですね。教員がいつも生徒の前に立ち、手をとって指導するのであれば、何をするのも簡単にできます。ですが、それでは結局「自分たちで成し遂げた」という思いを生徒に持たせることができません。その思いを持たなければ自律への道は開かれないでしょう。もちろん教員が何もしないわけではありません。「指導をされたと悟られない指導」をするとでも言いましょうか。失敗する恐れがあっても、最終的に生徒がやり遂げられると信じて見守り、そっと支え続ける。指導面においても「生徒主体」を重んじた学校であると思います。
真の「国際力」を身につけるために
英語が話せるだけでは、国際的に活躍することはできません。人は誰もが結局は「異質」であり、異なる考え方をもっている。まずそのことを理解できなければ、活躍どころかうまく付き合うことさえできないでしょう。日本人同士でもそうですから、より様々な価値観や宗教のような「異質」と出合う国際社会の中で、人付き合いをしていくというのは非常に難しいことです。けれども、中等教育の段階でその様々な「異質」を認められるようになっていれば、間違いなくグローバルに活躍する大人になれる。多様な価値観に触れる機会をわが校が積極的に用意しているのはそのためです。
高校1年生の総合活動「プロジェクト・スタディーズ」。年間を通じて行うゼミ形式の個人プロジェクトで、それぞれが設定したテーマについて研究を行います。この日は図書館でテーマ設定と下調べを行いました。
このたびSGHの指定を受けましたが、SGHの目的である「社会課題に対する関心や深い教養とコミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素養を身に付ける」教育をわが校では既に実践してきたと自負しています。ですから大きな方向性は今後も何ら変わるところはありませんが、今回の指定をきっかけとして海外大学との連携を考えています。たとえば高2の学校行事として新たに海外大学への研修旅行、いわば「超短期留学」を行う。今でもプロジェクト・ツアーズ(高2での研修旅行)では海外での研修を行っていますが、これをさらに推し進め、現地の大学の講義を体験したり大学生と議論を交わしたりする機会にしたいのです。
またわが校で行っている模擬国連活動に、いずれは海外の学生の参加者を招きたいと考えています。現在、校内模擬国連は参加者が200人に迫ろうとするほどの規模になってきており、他校の生徒さんも参加してくれています。SGHの指定を後押しに、いっそうの活性化を図っていきたいと思います。
「正解のない世界でいかに最適な判断をしていくか」という模擬国連の問題意識は、まさにわが校の教育目標と一致しているのです。現代的な教養をしっかりと身に付け、多様な価値観の中でいかに言葉をあやつりそれを活用していけるか。いま取り組んでいることについて、他者に責任を押し付けず、自らの責任として行動することができるか。何より人のために考え、行動することができるか。その上で「なりたい自分になる」ことを目指していくことが、キャリア教育として大切なのではないでしょうか。そのための機会や仕掛けをこれからも作り続け、生徒の支えとなる学校でありたいと思います。
修学旅行も生徒が企画―総合活動「日本文化体験」について
数々の特色ある総合学習を行っている公文国際学園。その一つが中3の修学旅行にあたる「日本文化体験」、コースも生徒たちが考えます。企画案を考え始めてから事後の論文作成まで、1年以上かけて行われる長期のプログラムです。
各コースのテーマについて、調べた内容をプロジェクターで発表します。
コースは1学年160人以上の生徒がそれぞれの案を持ち寄り、プレゼンや投票を繰り返す中で6から7のコースに絞り込んでいきます。自分が行きたいコースに行くため、生徒は度重なるコンテストでプレゼンを行い、他の生徒たちに自分のコースの魅力を納得させなければなりません。「自分たちが調べたいことについて体験できるのが面白いです」と話すのは中3の生徒さん。今回自分の企画したコースが代表の一つに選ばれました。「まさか自分のコースが選ばれるとは思っていなかったので驚きました。責任はとても感じるんですが、自分の企画が実現するのはやっぱりとてもうれしいですね。」
大勢の前でいかに自分の思いを伝えるか、自然とプレゼン力が鍛えられます。しかしこの「日本文化体験」の目的はそれだけではありません。校内案内を務めてくださった先生によると、「実際の社会でも、自分が提案した企画がそのまま通ることは少ないですよね。他人の企画の良さを認め、時には自己犠牲も払いつつ協力しあい、いかに人のプランの中で自分を生かすか。それもまたこの授業の目的なのです」。コースの企画だけでなく、実際にどのような行程にするのか、そして旅行業者の比較決定まですべて生徒が決めます。先ほどの生徒さんが次のように話していました。「正直に言うと、人をまとめるのは得意ではないんです。私のコースには30人弱が行くので、話し合いなど大変だと感じる時もたくさんあります。でも、みんなが手助けをしてくれるからこそがんばれるんだと思います」。生徒主体だからこそ、互いの協力関係がなければ成立しない。校長先生のお言葉が思い出されました。
生徒の要望も取り入れ発展―公文国際学園の模擬国連活動について
模擬国連活動に力を入れている公文国際学園。校内で行う模擬国連は「MUNK(Model United Nations of Kumon)」と呼ばれ、議論は日本語で行われますが、専門用語や議事の進行には英語が用いられます。
生徒たちは実際の国連の雰囲気を味わうとともに、実践を通して議論の仕方や国際的諸問題の解決方法を学ぶことができます。また「MUNK」の翌日に「MUNK」と同じテーマをすべて英語で議論する「MUNK international」が2012年度より始まりました。
「MUNK」会場の様子
海外の模擬国連にも年に2回から3回参加しています。志願者の中からそれぞれ10名ほどを選抜し、オランダのハーグやハーバード大学等の会議に参加します。「模擬国連には昔から興味がありました。でも自分は帰国子女ではないので、まさか参加できると思っていなかったんです」と話すのは高1の生徒さん。中2のときにジュニア模擬国連、中3でハーバードの模擬国連に参加し、今年も選考を受けて結果を待っているとのこと。積極的に参加を続けていますが、最初はほとんど発言ができなかったと話します。
「会議ではネイティヴの人が多く、次々に自分の意見を発言していきます。英語が日常的に飛び交う環境というのも初めてで、正直その場にいるだけで精一杯でした。でも一緒に参加していた友達にスピーチの作成などを助けてもらって何とか乗り越えられて、それから参加したことで英語をもっとがんばろうって張り合いがでたんです。それでもう一度行きたいって思うようになりました。」
前述の「MUNK international」は、驚くことに生徒さんの要望で開始されました。「日本語だけでは物足りない。さらに本格的な模擬国連をこの学校でやりたい」という意見が、生徒さんから多々寄せられたと校長先生から伺いました。学校全体が模擬国連に関心をもち、取り組みを行っている公文国際学園。SGHの指定を受け、これからの取り組みにいっそうの期待が集まります。
furel編集部より
5月22日と30日に、テレビ神奈川「CHUMAN進学ナビステーション」ロケにあわせて公文国際学園を訪問しました。木々の緑が映える白地のタイルづくりの校舎。山の斜面に建っているため、図書館のベランダから階下の校舎や真新しい人工芝の校庭が一望できました。
学校の印象について生徒さんにお話を伺いました。「留学生に帰国子女、寮があるので県外出身の人もいます。本当にいろいろな人がいる学校だと思いますし、友達がたくさんできて楽しいですね」。また、「自由だからこその大変さ」も知ったと続けます。「体育祭や表現祭(文化祭)のような大きい行事も、ほぼ生徒だけで行います。手順もすべて自分で考えて実際の進行も行うので、実は『自由』ってとても大変なんだと入学して感じました。でもだからこそ成功したときにはクラスが一つになれて本当にうれしいです」。笑顔でそう話す生徒さん。まさに「自分で成し遂げたからこその喜び」であふれていました。