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2014年7月公開号
vol.29 特集:SGH指定校 県立横浜国際高校の取り組み
グローバルなビジネスチャンスの模索と新たな国際貢献の展開を
平成20年(2008年)度に「社会のグローバル化に対応し、国際化・ICT化の進む日本社会、国際社会でリーダーとして活躍する人材を育成する」を教育目標に開校した県立横浜国際高校(以下YIS)。平成26年(2014年)度からは、国が推進する「スーパーグローバルハイスクール(以下SGH)」にも指定され、その教育内容に注目が集まっています。森校長先生、桜田教頭先生にお話をお聞きしました。
SGH指定で、これまでの教育が「深化」する
今年YISに赴任された森校長先生は「生徒はよくあいさつしますし、積極的ですね。校長室にもよくいろいろな相談や提案を持って来ます」。式典などでは、標準服のブレザーを着用しますが、それ以外は思い思いの服を着ている生徒の姿、そしてノーチャイム制が象徴するように、生徒には自主自律の精神が息づいているようです。
YISは外語短期大学付属と六ツ川の再編で、県内初の国際情報科高校として誕生しました。「日本国内の公立高校で初めてが3つ」(初代校長羽入田先生)。校内のコンビニエンスストア、アラビア語(選択)、1日4回チャイム代わりに流れるオルゴールなど話題を集めた同校ですが、その教育方針も時代の先端を行っていたと言えます。今年は1クラス増の6クラス238名の生徒が入学、その人気を物語っています。
「今回の指定を受けて新たに何かをするというより、これまでの取り組みが『深化』するということです」とは、同じく今年赴任された桜田教頭先生。確かに開校時の教育目標と、文部科学省の示したSGHの目的は共通しています。それでは具体的にどのような取り組みが行われていこうとしているのか、みていきましょう。
課題研究テーマは「日本の強みを海外へ売り込む方法の研究」
「気づき、考え、行動するグローバル・リーダー育成の戦略的プログラム」の研究構想のもとYISが取り組むのが、日本の強みを海外にどう売り込むか、というものです。そのテーマは3つのサブテーマに分かれます。
1.グローバルビジネスの新しい戦略構想
2.新しい平和貢献への道
3.世界の環境問題の解決に向けての提言
生徒は3つから一つを選び、1年次では日本語で、2年次では英語で論文を作成します。そして各テーマから選抜された30名程度が、2年次の夏にスタディツアー(海外研修)へ参加する予定です。日本の持つ有形無形の「資産」、「魅力」を海外へPRするための戦略を考えるというわけです。
「本校のSGH申請案は、アメリカで開かれた核兵器のない世界を考える高校生会議、クリティカルイッシューズフォーラムに参加するなど、平和貢献への取組みを中心に考えていましたが、文科省の「グローバルビジネスや環境問題にも注力してほしい」という意向を受け、企画を練り直しています。今も文科省といろいろと検討している最中です。県教育委員会からも県内の企業と連携したスタディツアーについて全面的なバックアップを頂いています」と桜田教頭先生。1対4で女子の多いYISですから、グローバルビジネス等での女性進出への期待があってのことでしょう。
「6月6日に講演会を開きました。日本で最大のフェアトレード(※)組織であるピープル・ツリーのアンバサダー(広報大使)を務めるフリーアナウンサーの方から、チャリティーではなくビジネスとして発展途上国の人たちにも継続的に関わるなかで、公平な対価を払うことでいかに彼らの生活が向上したか、また私たち一人ひとりが何を購入するかを選ぶことで世界によい変化を与えていけるかなどを話していただきました。生徒が生きた知識を吸収できる身近な講座をこれからも用意していきます」。
さらに日産自動車や国際開発援助機関(JICA等)による講演などを通して、ビジネス、国際平和、環境問題から自分のテーマを定め、課題研究に取り組むことになります。
SGHには予算がつきますが、このように生徒の海外研修費や講演費などに活用されるということです。
※フェアトレード…発展途上国の生産物を、その生産者の生活を支援するため、利潤を抑えた適正な価格で、生産者から直接購入すること
姉妹校交流、高大連携そして第二外国語
ところでSGHの目的は「社会課題に対する関心と深い教養」、「コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素養」を身につけることにあります。YISの特徴的な教育は、まさに教養と国際的素養、それを受信発信するコミュニケーション能力を高める学びです。
たとえば姉妹校交流は8カ国に及びます。ホームスティをしながら現地校に通えるだけでなく、姉妹校からの訪問団を受け入れる中で、日本にいながら国際交流の体験ができます。
また、平成22年に東京外国語大学と高大連携協定を結び、特別講演会やキャンパス訪問などを実施しています。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)、上智大学、横浜市立大学とも連携し、英語による専門的授業や講演会など、学びを深める機会が用意されます。
YISならではの第二外国語はドイツ語・フランス語・スペイン語・中国語・ハングル・アラビア語の6言語から選択、日本人教師とネイティブ教師による授業が用意されています。
「さまざまな国籍の27名の外国人講師が授業を担当しています。人気はスペイン語とフランス語ですね。公立高校初のアラビア語を選択している生徒も数十人います。語学学習は覚えることも多いですから、生徒はたいへんかもしれません。対外試合を除く日曜日の部活動は禁止、平日も夕方6時15分の下校として、学業とのバランスに配慮しています」と森校長先生。
YISは単位制のメリットを生かし、2年次生から進路希望にあわせた科目履修が可能です。今春の現役合格状況(4クラス158名中)は、国公立大18名のうち東京外国語大学と横浜市立大学にそれぞれ7名、リベラルアーツを広めた秋田の国際教養大学にも進学者がいます。また私立大学では、早慶上智に59名、明青立法中に97名が合格しました。森校長先生は「来年度入学生からカリキュラムを一部変更し、理系科目の強化を図ります。学力向上進学重点校としても、進学実績のさらなる向上を目指したいですね」。
最新の設備と豊かな自然環境のもとで
実際の授業を見学します。高1の総合英語では、1クラス40名を2クラスに分けた少人数の授業です。ティームティーチングでテンポよく進む授業は、すべて英語。ネイティブ講師のジョークに生徒の笑いが起こるなど、和やかな雰囲気です。視聴覚室では高2・高3の「イングリッシュスルームービーズ」。10名程度の生徒が思い思いの姿勢で外国映画を見ています。英語を聴き取るだけでなく、日本語訳では分からない「裏の意味」を考えるなどして、語い力をアップする授業だそうです。ちなみにYISの目指す英語力は、TOEIC-IPで700点。大学生の全国平均433点に対し、YIS生の3年次4月受験結果の平均点は607点だったそうです。
時間割の関係で情報系の授業は見られませんでしたが、国際情報科高校ならではの充実したICT環境は、教養を深めたり、情報発信能力を高めたりと活用されているそうです。
高台にある校舎の窓からの眺めは開放的で、校舎を囲む緑も映えています。グラウンドは天然芝。最新の設備と豊かな自然環境のもと、生徒たちはグローバル社会で活躍するリーダーとしての素養を日々磨いています。
最後に校長先生、教頭先生に中学生に向けてメッセージをお願いしました。
県立横浜国際高校
森校長先生
「本校の教育目標にもSGHの目的にも『リーダー』という言葉が出てきます。リーダーとは、人望とタフさを持つ、全人的魅力を持った人間だと考えます。それは決して先天的なものではなく、環境や体験の中から養っていけるものです。本校の環境と教育内容は、それに応えられるものだと考えています。まずは本校に足を運び、実際に見てほしいですね」
県立横浜国際高校
桜田教頭先生
「待ちの姿勢ではなく自分で人生を進んでいって欲しい。それには気づきが必要です。気づきがあるから次に進める。本校では、気づきのチャンスをたくさん与えていきます」