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2014年4月公開号
vol.26 特集:公立高校新入試、2年目を振り返る
公立高校新入試、2年目を振り返る
全員が学力検査と面接を受験する全国でも珍しい神奈川県の公立高校入試制度。神奈川の公立中学生はどのように立ち向かっていったのか、初年度と何が違っていたのかを見ていきましょう。
1クラス40名の学級にたとえると…
公立中学3年生が、どのような志向を持ってどのように受験していったのか。それをイメージしやすい、1クラス40名の生徒たちに置き換えて振り返ってみましょう。
昨年10月に行われた進路希望調査では、クラスの33名が全日制公立高校への進学を希望、そのうち県立・市立進学重点校を希望したのは6名でした。年が明け実際に全日制公立高校を志願したのは30名、そのうち進学重点校へは5名が志願しました。他の生徒は私立高校などに進路を定めたようです。そして志願倍率が公表されます。今年は志願変更の期間が約1週間と余裕のある日程だったため、志願変更した人数が増え、定員割れの高校も昨年の19校から7校へ減りました。
いよいよ受験です。2月14日、29人が合格を目指し受験会場へ。すると外は大雪に。月曜日には面接や特色検査があり、高校の先生も雪かきに追われました。そして試験から待つこと2週間弱、2月27日の合格発表で25人が合格しましたが、4名が残念な結果となり、私立高校などに進学することになりました。当初、全日制公立高校進学を希望していたのは33名。最終的にはそこから8名減った25名が全日制公立高校へ進学することになったわけです。
2014年度公立高校入試を振り返る
- 2013年10月公立中学3年生進路希望調査
- 卒業予定者70,500人
- 全日制公立高校希望者57,408人
- 2014年1月29日~31日募集
- 2014年1月31日志願状況公表
- 共通選抜志願者52,540人
- 志願倍率1.20倍(昨年1.19倍)
- 定員割れ34校
- 2014年2月5日~7日志願変更
- 2014年2月7日志願状況公表
- 志願変更利用者2,817人
- 共通選抜志願者52,499人
- 志願倍率1.20倍(昨年1.19倍)
- 定員割れ7校
-
- 2014年2月14日共通選抜
- 受験者50,864人
- 受験倍率1.19倍(昨年1.18倍)
- 2014年2月27日合格発表
- 合格者51,932人
- 実質倍率1.18倍(昨年1.17倍)
進学重点校人気はさらに高く
全体の動向を確認したので、ここからは新入試制度下の公立高校入試をおさえる上で重要なポイントを見ていきましょう。まずは進学重点校についてです。
進学重点校は大学進学に力点をおいた高校で、県立高校では「県立進学重点校」が18校、横浜市立高校では「横浜市立進学指導重点校」が4校指定されています。大学進学率が5割を超える神奈川において、大学進学は高校選びの重要な要素の一つとなっています。
22校のうち新たに横浜緑ヶ丘と市立南が加わり11校で「特色検査」が実施されました。この特色検査、5教科の共通問題に加えて高校が独自に実施しますから、試験日程も長くまた対策も必要とあって、受験生にしてみればハードルの高いものです。ところが、そのハードルを敬遠することなく、今回も多くの3年生が挑んでいます。表1が進学重点校22校の志望状況をまとめたもので、2月14日検査時の倍率順です。
昨年の希望調査では1万名を超える中3生が進学重点校を希望していました。進学重点校の定員は卒業予定者数の増を受け、昨年から231名増えた6576名ですが、それでも1.63倍という高い参考倍率となりました。その後、願書提出、志願変更を経て2月14日本番を迎え、9109名が挑みました。そして合格者は昨年の進学希望者の6割に当たる6626名でした。受験後取消者を除いた実質倍率は1.34倍、昨年の1.28倍からさらに難度が上がったことになります。ちなみに受験後取消者数は全体で391名、そのうち6割以上にあたる256名が進学重点校で発生しています。これはいわゆる難関国私立高校を併願していた受験生が、そちらの合格が決定したために取り消したものが大半です。
新入試制度となり、全日制公立高校全体の実質倍率も昨年が1.17倍、今年が1.18倍と決して広い門とはいえません。しかしそれ以上に進学重点校は狭き門です。いわゆる難関上位校の難化傾向は、中学受験でも同様に見られます。チャレンジ精神を持った受験生同士のシビアな戦いは、今年度も続くと思われます。
画一教育の象徴、「学区」はもはや死語
県立高校の「学区制」が撤廃され10年近く。現在では市立高校の一部で学区が敷かれているのみです。学区制の目的は、高校進学希望者の高校進学をかなえるために事前の進路指導をしやすくすることでした。入試選抜資料における内申等の比重を高くし、「この成績なら○○高校」という中学校側の進路指導を容易にさせました。それらによって、各校平均的な倍率に落ち着き不合格者も少なかったわけです。新校建設とあわせ、急増する高校進学希望者への対応が、第一目的の制度でした。「学区」は、いわば画一教育、輪切り進路指導の象徴であったわけです。
ところが少子化が進み、また社会の要請は「個性尊重」となります。そこで特色ある高校作りと、その特色に合わせた主体的な高校選択を可能とする、学区制の撤廃が行われるのです。そして受験生は高校の特色や通いやすさなどを考慮し、主体的な高校選びをするようになりました。進路希望調査では、すでに「旧学区」外を希望する生徒が4割を優に超えています。中萬学院グループが高校合格実績表記に「旧学区トップ校」の表現を使用しないのは、すでに今の時代にそぐわないと考えるからです。
さて、今回500名を超える志願者を集めたのは6校。横浜翠嵐・湘南・川和の重点校と、海老名・市ヶ尾・大船です。これらの高校は1学年9・10学級と大規模校でもありますが、地理的背景だけでなく、志願者を集める魅力があるからと言えます。一方、志願時点で定員割れのあった高校も34校、普通科では15校が定員割れとなりました。初年度は志願変更期間が短かったため、大きな変化は見られませんでしたが、今年は1週間の猶予があったため、1校を除き普通科の定員割れは解消しました。また総合学科も3校からゼロへと解消されています。一方、志向性の強い専門学科や専門コースでは、最終的に7校で定員割れとなりました。最も倍率が低かったのは新規募集となった市立戸塚音楽コースで、志願当初が0.56倍(17名の欠員)、志願変更後も0.74倍でした。
学力検査問題は理科が大幅難化!
新入試制度移行により、学力検査問題も大きく変化しました。「思考力・判断力・表現力」が今までより重視される内容となり、記述問題も増えています。初年度は英語と社会で難度が上がり、2年目では理科が大幅に難度を上げました。中2までの内容が全体の65%を占めますが、計算を要する問題の配点がほぼ倍増、問題文・図表の内容が抽象化したり複雑化したりしています。県教育委員会が発表した各教科の得点分布は以下のとおりです。
特色検査は大学入試達成度テスト?
特色検査は実技検査と自己表現検査に分かれ、進学重点校が多く実施するのが自己表現検査です。「自己表現検査」という名称からは想像しにくいこの検査、要は教科横断型の「学力テスト」です。5教科の共通問題からはつかめない学力を見ようというもので、各校が力を入れ作成しています。その教科横断型の出題は、大学入試センター試験に代わり導入予定の「達成度テスト」でも検討されています。
達成度テストの基礎レベルが推薦・AO入試で活用され、発展レベルがセンター試験の代わりとして機能する予定ですが、その出題は「知識の活用力」を問うものとし、教科を横断した「合科目型」や、知識の汎用力を問う、言い換えれば教科知識を問わない「総合型」が示されています。その総合型は、公立中高一貫校適性検査や、今年の特色検査でもその類似性を見ることができます。「総合型」の特色検査を見ていきましょう。
今年のトピックスの一つが横浜緑ヶ丘高校の問題です。50分の試験時間で大設問が2題。一つは自分が「幸福を感じられる暮らし」とはどのようなものかを、用意された5つの指標の中から選び記述したり、他の人が選んだ1位の指標の理由を推測し記述したりするものです。そしてもう一つが「企画書作成」。オーストラリアから来る20名の中学生と、クラス40名とが、どのような交流会を行うかを企画シートに表すというものです。解答用紙の採点欄には「思考」「表現」そして「創造」とあり、受験生の創造性を問う出題であることが分かります。ちなみに、今春開校した川崎市立川崎高校附属中の適性検査問題でもまさに同じ、オーストラリアのウーロンゴン市から来る小学生との交流会を企画する出題がありました。
もう一つが「暗号解読」です。湘南、柏陽、希望ヶ丘で出題されました。暗号化のルールが示され、そのルールに基づき単語を暗号に変えたり、暗号からもとの単語を導いたり、あるいは単語と暗号からどのような暗号化を行ったのかを導いたりするものです。
企画シートにしても暗号解読にしても、その場で与えられた情報(条件)をもとに、その場で考えそして解答する力が求められます。企画シートでは条件に沿った「企画提案力」、暗号解読では「タフな思考力」ですね。そういった力も入試で測られる時代だ、というのはぜひおさえておきたいところです。そして公立中高一貫校適性検査にせよ、特色検査にせよ、それらが合格するための関門であると同時に、将来の大学入試にも通じる新しい時代の学力養成の機会でもあるのです。未来を開く学力作りに、学びの楽しさをもって取り組める。そんな学びの場が中萬学院グループです。