furel
2014年5月公開号
vol.27 特集:「サイエンス」と「言葉の力」 二本柱でグローバル・リーダーを
SGH(スーパーグローバルハイスクール)の取り組みとは
神奈川県内唯一の公立理数科高校である市立横浜サイエンスフロンティア高校。先進の設備と充実した指導体制、そして大学進学実績でも県内を代表する高校の一つです。そして開校6年目の2014年、SGH(スーパーグローバルハイスクール)の指定を受けました。
理数だけにとどまらないその多彩な取組みについて、開校準備からずっと携わる栗原校長にお話をうかがいました。
文系・理系に限定しない、広い学び
わが校の理念は、「サイエンス」の広い素養や論理的思考力、そしてコミュニケーション力を身に付けた子どもたちを育てることです。先端科学技術の知識を活用して世界で幅広く活躍する人材の育成を目指しています。
誤解を招きやすいのですが、ここでいう「サイエンス」とは単なる「理系科目」といった意味ではありません。もちろん、理数科の高校であるので主体は理科・数学・情報といった自然科学の分野です。しかしそれだけに限定せず、社会科学・人文科学なども含めた幅広い教養を身に付けてもらいたい。そのような意味であえて私たちは「サイエンス」という言葉を使っているのです。
一方で、たとえ「サイエンス」の力を身に付けたとしても、自分一人だけでは何もできません。だからこそコミュニケーション力、言葉の力も一緒に培うことが重要だと考えており、理数科目に加え国語・英語といった言語に関わる学問にも重きを置いています。私自身も、夏期休業中などには生徒に向けて「言語活動」の実践講座や「夏目漱石」ゼミを開講しています。わが校は理系の学校ということで注目を集めていますが、最終的にはアメリカのように文系・理系の隔たりなく学べる学校になることを理想にしています。
SGHとしてさらなる飛躍を
わが校は開校2年目の2010年にSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定を受け、指定校としての責務を着実に果たしてきました。今回さらにSGHに指定されたことで、より幅広く「サイエンス」に基づく活動ができると思っています。たとえば、人文科学や社会科学の分野の研究者の方をお招きして、生徒たちが課題研究を行うことなどです。
これまでにもわが校は、アメリカ・カナダ・マレーシアなど各国大使館と提携したプログラムを行ってきました。海外への研修機会は今後ますます増えることでしょう。SGHの指定によって、わが校がさらに次のステップに進める機会を得たと考えています。
目指すはグローバル・リーダーの輩出
よく「グローバル人材の育成」という言葉が使われますが、本校が目指しているのは言うならば「グローバル・リーダーの育成」。サイエンスの分野から選ばれし、期待されるリーダーをこの学校で育て、輩出する。それこそが私たちの使命であると考えています。大学受験の合格だけを目的にするのではなく、充実した環境の中にいながら「ここを出た後にどうしたいか」を考えられる。社会のため人のために、自分にできることを考えて問題を解決する。そのような人を育てたいという願いのもとに、この学校はいま教育を続けています。
理念を実現する特色ある授業―furel編集部による授業見学
「サイエンスの力」と「言葉の力」を身に付ける、その象徴の一つが「サイエンスリテラシー」という授業です。1・2年次の必須科目であり、大学の先生や研究者の方から直接講義や実験の指導を受けることができます。2年次では30近くあるプログラムの中から興味のあるテーマを選択し、多くても7人程度の少人数ゼミで、年間を通じて研究を行います。
訪問の際に、2年生の授業を見学させていただきました。プログラム「太陽の観測」では、校舎屋上の天体観測ドームにて3名の生徒が太陽の黒点のスケッチを行いました。指導をするのは天体観測の専門家である科学技術顧問。生徒自身がパソコンで天体望遠鏡を操作し、器具を用いて観測用紙の取り付け方法を学びます。「スケッチをする際には、どちらが北か方角を確認しておくことが大切です」と顧問。研究のために必要となるスケッチのとり方を、ていねいに基礎から学習できました。
また別プログラムの「ロボット制御」では、ロボットの部品の組み立てからパソコンでのプログラミング作成まで全て生徒が行い、実際にロボットを動かします。こちらは4名の生徒が指導を受けていました。1人の生徒が「ロボットの足が指示通りに動きません」と先生に尋ねます。パソコンの画面をのぞき、指をさしながら「プログラムのこの部分がおかしいからだよ。どうおかしいかは考えてごらん」と指摘する先生。指摘を受けてすぐに自分のプログラムを見直す生徒。少人数制の手厚さに加え、生徒に解決法を考えさせ自立をうながす様子がうかがえました。
この「サイエンスリテラシー」での研究成果は、2年次の海外研修においてポスターセッションで全員が発表します。もちろんポスターの文章はすべて英語です。生徒たちは1カ月近くもかけて、難しい専門用語も扱いながら自分たちの研究成果をポスターにまとめていきます。また代表者はマレーシア科学大学にて口頭発表も行います。「英語で話すのは難しいけれども、その分伝わった時のよろこびがとても大きかったです」と話すのはインタビューを受けてくれた生徒会長さん。「授業でただ英語を使うだけでは、このよろこびまでは分からなかったと思いますね」。
コミュニケーションのための英語を重視する横浜サイエンスフロンティア高校。「オーラル・コミュニケーション」は40人のクラスを2つにわけて2種類のプログラムを入れ替えて行います。見学させていただいたのは、入学したばかりの1年生の授業。プログラムは会話の練習と伝言ゲームです。会話のプログラムでは、先生から次のような話が。「質問をされたら、ただの『Yes』や『No』で終わらせないでください。質問の答えから話題をふくらませて、ぜひ相手との会話を楽しんでください」。最初は少し照れていた生徒たちですが、授業が進むうちに自然と笑顔が増え、声も大きくなっていったのが印象的でした。
開校当初から「サイエンス」と「グローバル」に重きを置いていた横浜サイエンスフロンティア高校。SGHの指定を受け、教育内容のさらなる充実が期待されます。
furel編集部より
4月23日、テレビ神奈川「CHUMAN進学ナビステーション」のロケにあわせて横浜サイエンスフロンティア高校を訪問しました。太陽の光が差し込む、明るく広いガラス張りの校舎。校内にはあちこちに生徒の研究成果が掲示され、南極の岩など科学に関する展示物もたくさんありました。また校内に幾つもある実験室には、大学の研究室を思わせる本格的な実験器具が設置されています。
環境の良さは設備だけではありません。生徒会長さん・副会長さんからお話をうかがいました。「何よりもこの高校で素晴らしいと思うのは、生徒がみんな科学に対して興味があること。みんなで競い合い高め合っていける環境がうれしいです」「他の人と議論し、話し合うことで他者とのつながりも深めていけるし、自分の好奇心もさらに強まって楽しいですね」。ハキハキと語る彼らの言葉から、科学に対する情熱が伝わってきました。
校舎には向かい合う2本の渡り廊下があります。校内案内を務めてくださった先生によると「正門に近い側は『知識の架け橋』、奥側は『知恵の架け橋』とそれぞれ名前がついています。生徒たちは知識を通って、知恵にたどり着くのです」。科学の学びを楽しみ、得た知識を交流のなかで育み、知恵として社会に貢献してほしい。学校の理念をいたるところで感じた取材となりました。